フリーランス

独立の手続き(社会保険の切替え)

これまでフリーランスが独立する手順をシリーズとして、複数回にわけて紹介しました。テーマを以下に再掲します。各項目は記事へのリンクを貼っておきますので、興味のある方は確認してみてください。

  1. 独立に向けた情報収集
  2. 退職日の調整
  3. 開業準備(開業届+青色申告申請提出)
  4. 会計準備(事業用銀行口座・クレジットカード申込み、会計ソフトの導入)
  5. 業務受注(エージェント登録)
  6. 設備準備(仕事部屋や PC などの設備)
  7. 社会保険の切替え(社会保険、年金の切替え)

これまでの記事では①〜⑥についてまとめました。各記事でお話したような手順を踏んでいくと、すでにフリーランスとして業務を開始する準備ができていると思います。

今回は最後の⑦についてお話しますが、こちらは業務開始後、正確には会社の退職後に必要な手順となります。フリーランス(個人事業主)と会社員では加入できる社会保険が異なります。

カテゴリ 会社員 フリーランス(個人事業主)
年金保険 国民年金
厚生年金
国民年金
医療保険 健康保険 国民健康保険
労働保険 雇用保険
労災保険ほか
なし

社会保険については充分に理解していない人も多いかと思うので(偉そうに言ってますが、僕も独立前の情報収集で涙ながらに勉強することになりました)、簡単に要点をお話します。その中で、フリーランスは何をする必要があるかを説明します。

社会保険について

まず、社会保険の定義ですが、国が提供している各種保険の総称です。社会保険の内訳(カテゴリ)として、上記のように年金保険、医療保険、労働保険があります。上記の表に会社員・フリーランスに対応する保険は原則加入が義務づけられています。逆に、対応していない保険には加入する資格がありません(つまり、加入できません)。例えば、会社員が国民健康保険に加入する、フリーランスが厚生年金に加入する、といったことはできません

前提として納付する方法ですが、会社員は社会保険をすべて給料から天引きされているので、個人が納付する必要はありません[1]会社員の社会保険のうち厚生年金と健康保険は会社がおよそ半額を負担して納める。一方フリーランスは社会保険料を全額負担する一方フリーランスは送付された納付書をもとに自分で支払う必要があります

以上を踏まえてカテゴリごとに概要とフリーランスが必要な手続きについて説明します。尚、公務員に関する言及は割愛していますのでご了承ください。

年金保険

老後(引退後)に向けて資金を積立てる保険が年金保険です。年金は 3階建て構造などと呼ばれ、以下の構成となっています。

  • 国民年金
  • 厚生年金
  • 企業年金

うえから順に 1階部分、2階部分、3階部分などと呼称されます。2階だけ、3階だけという加入はできません。それぞれ説明します。

まず、国民年金ですが、基礎年金とも呼ばれ国民全員に加入する義務があります支払う金額も受け取る金額も一律という特長があります。

次に厚生年金ですが、会社員に加入義務がある年金です。会社員は国民年金と合わせて、加入が義務付けられています。所得によって支払う金額が異なり、受け取る金額もそれに応じて変動します。

最後に企業年金ですが、これは企業が上記のほかに、社員の年金を積立てる制度です。詳細は割愛しますが、例として確定拠出年金、厚生年金基金などが該当します。

フリーランスの手続き

フリーランスには厚生年金に加入する資格がありませんので、まず最寄りの役所へ連絡し、手続きに必要な書類などを確認のうえ、役所の窓口で国民年金のみに切り替える(厚生年金を脱会する)手続きをしてください。僕は身分証明書、年金手帳で手続きしたように記憶しています。手続きが完了すると後日納付書が届きますが、時差があるため、注意が必要です。僕の体験で言えば、5月末に退職したので、5月分は会社が給料から天引きして支払い、6月に国民年金の手続きをして 7月に納付書が届いたため、6月の納付を忘れ、後日督促の連絡が入りました。このようなことにならないように、会社員としていつまでの分を支払ったかを正確に把握するようにしましょう。

医療保険

医療保険は医療にかかる負担を 7割軽減(いわゆる 3割負担)してもらえたり、高額医療を控除できる保険です。病院に行ったことないという侍はあまりいないと思うので想像はつきやすいかと思われますが、要するに保険証をゲットするための保険です。

医療保険には健康保険国民健康保険の二種類が存在しますが、これは似て非なるモノですので注意が必要です。健康保険などと略称っぽいですが、これは固有名詞です。命名者のセンスを呪うのとともに、この機会に覚えてしまいましょう。

前提として日本は「国民皆保険制度」を採用しており、国民の医療保険加入が義務付けられています。

まず健康保険ですが、会社員が加入する医療保険になります。一方、フリーランスは健康保険に加入できないため、国民健康保険に加入する必要があります。健康保険と国民健康保険は共通してカバーする部分がありますが、出産手当や傷病手当など、健康保険にしかない制度もあります。また、国民健康保険には扶養の概念がありません。扶養家族であっても人数分然るべき保険料を支払う必要があります。この点については、以前フリーランスとなる最大のリスクとして記事にしてますので、よかったら参考にしてみてください
尚、健康保険を提供する主体は企業が加入する健康保険団体である一方、国民健康保険は自治体が提供します。手続き先が異なるので、覚えておきましょう。

フリーランスの手続き

会社を退職したばかりのフリーランスには 2つの選択肢があります。

  1. 国民健康保険へ切替える
  2. 健康保険を継続する(任意継続)

まず、国民健康保険に切替える方法ですが、これは社会保険と同様、最寄りの役所に問合せたうえで窓口で手続きをします。

健康保険任意継続について

面倒なのが健康保険を継続する方法です。これは任意継続と呼ばれ、特定の手続きをすることで、会社員として加入していた健康保険を最長 2年間継続する制度です。継続の手続きをしたタイミングで保険料が確定し、以降期限まで保険料は変動しません。僕はこちらを選択しましたが、健康保険の恩恵を継続できるうえ、保険料も少なくなるので大変オススメです。

僕は夫婦共働きで娘がいますが、娘は犬なので扶養に含まれません。そのため、国民健康保険に切替えるインパクトはお子さんなど扶養家族のいる家庭よりだいぶ少ないほうですが、それでもフリーランスになった年だけでも、年間 ¥20,000- 以上保険料を削減できました。

健康保険と国民健康保険の保険料にどれほどの差がでるのかは、それぞれの保険料の目安を比較します。まず退職する前に所属する会社に任意継続した場合の保険料を確認しましょう。会社は社員の保険料を半分負担しているため、任意継続した場合はおよそ保険料は倍になります。そして最寄りの役所に、国民健康保険に加入した場合の保険料を確認します。その際に昨年の所得(源泉徴収票の「支払金額」或いは「給与所得控除後の金額」)を伝えておくと話が早いです。僕はメールで問合せましたが、その結果、任意継続の方がその年には月額 ¥3,000- 程度安くなることがわかりました。健康保険が倍になっても尚、国民健康保険の方が高いということでした。それほどに国民健康保険の保険料は高いのです。

たった ¥3,000- かよ!?と思うかもしれませんが、その翌年以降は月額 ¥20,000-(年間 ¥240,000-)以上の削減となりますので、その恩恵は推して知るべしといったところです。

なぜ翌年以降大きく差が開くのかについて説明します。健康保険、国民健康保険の保険料はいずれも前年の所得に応じて確定します。そしてほとんどのエンジニアが独立すると収入が増えます。
例えば、会社員として年収 400万円だった人がフリーランスでは年収 600万円になったケースを想定します。話をシンプルにするため、これらは手取りとします。この場合、任意継続すると保険料はおよそ ¥40,000- となり、国民健康保険は ¥42,000- になるとします。これはあくまで目安ですのでご留意ください。
この状態で、1月からフリーランスとして開業した場合(前年の12月末で会社を退職)、保険料の月額目安は以下のようになります。

  • 開業した年(前年の年収 400万円)
    • 任意継続:¥40,000-(年間:¥480,000-)
    • 国民健康保険:¥42,000-(年間:¥504,000-)
  • 開業した翌年(前年の年収 600万円)
    • 任意継続:¥40,000-(年間:¥480,000-)
    • 国民健康保険:¥60,000-(年間:¥720,000-)

1年目は会社員だった頃の所得に対して保険料が算出されていたのが、2年目からはフリーランスとしての所得に対して算出されていることがわかります。
前述の通り、任意継続は 2年が上限ですので、上記の計算だと、開業した年では ¥24,000- の差分、翌年では ¥240,000- の差分、合計 ¥264,000- の保険料削減に加えて、健康保険の制度(特に扶養)が利用可能です

逆にフリーランスになって所得が減る見込みとなっている場合は国民健康保険に切替えるほうが無難だと思いますが、そのような特殊な事情がない限り、任意継続を強く推奨します

実際の手続きですが、これも僕の実体験で説明すると、退職後まずは保険を提供する団体へ連絡して(連絡先は会社が教えてくれます)任意継続する旨申し入れ、必要な書類と初回の保険料を現金書留で郵送しました。書類について詳細は忘れてしまいましたが、身分証明書・開業届の写しくらいだったと記憶しています。会社から資格喪失の手続きをしてもらっているので、保険の資格喪失証明書や退職証明書などは必要なかったと思います。

最後に、難点が 2つあるのでそれも添えておきます。
まずひとつ目は、僕が加入していた保険組合特有かもしれませんが、カード決済などはもちろん、口座振替も不可です。毎月月初に納付書が届き、所定の銀行窓口で支払う必要があります。最寄りで手続き可能だったのはみずほ銀行と横浜銀行くらいでした。
もうひとつは、期日厳守のため一日でも支払いが遅れると即資格を失うことになります。月初に届いた納付書の支払期限は当月10日です。特に 5月や 1月は月初に休みが集中しているため、支払いできるタイミングが非常に限定的となります。

労働保険

労働保険は労働者に対する保険で、雇用保険(いわゆる失業保険)や労災保険はその代表格です。冒頭のようにフリーランスは労働保険に加入できません労働はしますが、労働者ではありませんからね。ただ資格を喪失するだけなので特にすることはありません。

労働保険がないことで、仕事がなくなったときの補償や、通勤や業務中に負傷した場合の補償を受けることができませんが、その是非についてはここで触れません。個人的には特にデメリットとは考えていませんが、機会があれば話していきたいと思います。

さいごに

本記事をもってフリーランスになる法的・実質的な手順についての説明を終了します。ご覧いただきありがとうございました。ここまでの手順を踏むと名実ともにフリーランスです。

フリーランスには管理する人、束縛する人、そして守ってくれる人はいません。僕は 24歳で実家を出ましたが、家賃を自分で払い、すべて自分で家事をして、言いしれぬ達成感を感じました。周りから一人暮らしがどれほど大変かと散々脅されましたが、開放感以外あまり感じることはありませんでした。
そして会社員を辞めて独立した際、これに非常に似た感覚を覚えました。ただの自分勝手な人間なのかもしれませんが、仕事を含め、生活のすべてを自分の責任で賄うことによって、ようやく自分の人生を取り返しているような気がしています。

もしこれを読んでいる方で、会社員であることや人に依存する人生に疑問がある方がいれば少しでも本記事や関連記事が一助になれば嬉しい限りです。

脚注

脚注
1 会社員の社会保険のうち厚生年金と健康保険は会社がおよそ半額を負担して納める。一方フリーランスは社会保険料を全額負担する
ABOUT ME
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フリーランス、システムエンジニア。 営業・販売、肉体労働などを経て 2007年から IT 業界に従事。文系出身かつ未経験者のため立上りに大変な時間と労力を要する。 新規システム開発を提案から設計・実装・保守・運用まですべての工程を担当する(実装は主にサーバサイド)。その傍ら、他業種・他職種の経験や上記立上りの経験を活かし、教育や業務標準化など、組織の育成に勤む。 私立大学現役合格、現役中退。基本情報・応用情報技術者取得、高度試験はモチベーション確保という観点から見送り。普通免許ゴールド保持者。 趣味は犬。