健康

五月病

五月病という言葉があります。正式な医学用語ではなく、新卒入社や転職、部署異動などによる大きな環境変化に伴い、心身の調子を崩す現象で、だいたいの新卒が4月入社で入社一ヶ月後の5月あたりに発症する現象を表しています。(学生の入学でも同じことが起こる)

本日は五月病について思うことと、新卒エンジニアで五月病っぽいなぁ、と思う人に向けたアドバイスと言いますか、少しでもためになるような話をしたいと思います。

五月病がよくわからない

まずは僕が五月病の体験がないことを断っておきます。

投稿者は大学を中退して、運転免許を取る期間を経てすぐに就職しています。最初の数社は数ヶ月で退職しているため、その合間にバイトでつなぎながらではありましたが、フリーターに落ち着いたことはありません。

何が言いたいかというと、新卒就活の経験がなく、就職はすべて中途採用で、同期入社もいませんでした。偶然4月に入社したこともありますが、入社一ヶ月に体調を崩した記憶はありません。

五月病は頑張ったひとの特権

五月病の原理としては、以下の現象が大きなストレスとなるとのことです。

  • 住むところが変わる
  • 関わる人間が変わる
  • 通う場所が変わる
  • 覚えることが一気に増える
  • 拘束時間が増える

個人的にはこれに加えて日本の文化として「目標達成主義」があることも原因としてあると考えてます。「目標達成主義」とは僕が勝手に考えた言葉で「特定の目標(受験や就職)を達成したらその後の人生が約束されているかのような風潮」を指しています。

なぜか学校でもほとんどの企業でも教えてくれないのですが、人生は長距離走ですほとんどのひとは大きな目標を持たず、小さな、或いは中くらいの目標を何度もクリアし続けるのが人生です

残念ながらどれほどの大企業や成長企業へ就職しようとそれは入口に過ぎません。それをあたかも「内定が出た時点で人生あがり」のような風潮によって、過剰な達成感を感じするのではないかと思います。学業を頑張り就活を頑張り、ようやく第一希望の企業から内定が出たところで気力がひとつのピークに到達して、いざ社会人生活が始まると上記のような理由で「自分は何をしているんだ」とか「終わったと思っていたらまだまだ先があった」というような気分になって気が遠くなるのではないでしょうか。

また、ほとんどのひとは新卒で成果を上げるまでそれなりに時間がかかるものです。学業でそれなりの成績を出してきたひとほどそのギャップで落ち込むことになると思います。

また、僕にはない感覚ですが、大学、高校、専門学校で最上級生で、ある意味誰にも頭を下げることなく学校を過ごしていたところから一気に新米扱いされることにもなります。サークルやゼミで大きな顔をしてきたひとはこの状況がそれなりのストレスになるのは想像に難くありません。

研修はつらいよ

新人の研修は会社にもよりますが、営業やサービス業であれば1ヶ月程度、エンジニアであれば最低でも3ヶ月程度が一般的です。

以前所属していた会社で行われていた研修の内容は以下のカリキュラムが用意されていました。

  • 社会人マナー講習
  • IT の基礎学習
  • プログラミング学習
  • チームを編成し疑似プロジェクト開発

他業種であれば「社会人マナー講習」以外は業界に関する講習となると思いますが、よほど特殊な業界でない限り、IT 業界のカリキュラムほどの情報量はないでしょう

この研修で得る知識やスキルのボリュームは実務のそれとは比較になりません。未経験者が専門家となるべく研修を受けるわけですが、未経験者と言っても、社会人とエンジニアの両面ともド素人なので必要な情報量は膨大になります。そんな膨大な情報量を毎日インプットすれば疲弊するのは当然です。

ただ、学生と違って給料をもらって研修を受けているわけなので、お金もらえる学校と思えば、ちょーラッキーと言えます。幾つかの例外はあるとしても研修受けてお金をもらえる機会は今後ないと思ってよいでしょう。

個人的な意見を述べると、まず研修のあの学校みたいなノリが無理です、キモいと言って差し支えないと思います。もしこういう風に思う人がいたら僕と同じ不適合者の可能性があるのでご注意いただきたいです。ただ、研修も有益な面があるのと、数ヶ月で終わるので我慢する価値はあると思います。

スポーツにしても仕事にしても 0 → 1 で何かをすることが最も負荷が高いです。車が走り出す際に最も大きな力が必要なことと同じです。なんにせよ「誰の目からみても大変なことをしている」という自負を持つとよいでしょう。

研修に思うこと

ここから研修に対して個人的に思うことを述べていきます。いずれも批判的な内容ですので、研修がつらいと思い人は憂さ晴らしにご覧ください

ドメイン知識不足

個人的には IT 業界の業界知識を教育してほしいです。研修で IT 業界の成り立ちやお金の流れなどは一切説明を受けることはないようです。

業界のことをよく知らずに生きているのは IT エンジニアだけです。アパレル業界のことを知らずに UNIQLO で働いているひとはいません。細かく言及しませんが、業界に関する知識がないと様々な問題が発生することになります。IT 業界特有の問題ではありますが、そろそろ恥を知れって感じです。

カリキュラムが低品質

自分が所属する会社に関わらず、研修あがりの新人は驚くほど実用的な知識もスキルもありません。多少勘のよい新人はいますが、おおよそ小手先ばかりで基本はおさえられていません。ここでいう「基本」には様々な意味がありますが、プログラミングはできても「なぜそうするか」を理解していません。

これはカリキュラムの組み立てが悪いことに加えて、講師の説明がわかりにくいためだと考えています。例えば3ヶ月の研修の合計時間は 160時間/月 × 3ヶ月 で 480時間となります。IT の基礎知識を網羅している基本情報技術者試験の合格となる学習時間の目安は 300 – 500 時間とされています。研修の「社会人マナー講習」は数日で終了するとのことでおおよそ 450 時間が IT に関する研修と言えます。基本情報の合格とエンジニアの技術力が比例しないことは別のところで話をしていますが、少なくとも基礎知識をつけるには充分な時間が確保されていると考えています。その割に基礎知識がなく大して手も動かないのであれば、カリキュラムが悪い、教え方が悪いと考えてよいと思います。

IT の研修では概ね教育を専門としている企業が社内の講師、或いは一時的に他社のエンジニアや僕のような個人に依頼して教壇に立つこととなります。ここで問題が2つあります。

  1. 講師を専門としているエンジニアは現役でないため流行や実務に疎い可能性がある
  2. 現役であってもエンジニアは説明がヘタクソ

前者については普段エンジニアとして業務を行い、隙間や繁忙期だけ講師をするひとも多く、講師専門は逆に少ないかも知れません。問題は後者で、そもそもエンジニアは説明がヘタクソです。一般的に、理解して実践することと、同じように他人に理解させて実践させることには難易度に3倍の開きがあるとされています。はじめから誰かを教育する前提で業務を行うわけではありませんので、教育に向けた意識的な行動が必要となります。加えてエンジニアは内向的なひとや知識マウントを取りたがるひともいるので、教育に向いているひとが少ない傾向にあると考えています。

これを補うべく研修企業が誰が講師をしても品質に差が出ないように会社独自のカリキュラムを用意しています。講師自身も研修を受けますし、あまり尖ったことやカリキュラムや教科書にないことを口にすることができません。なので、たぶんこのカリキュラムがイケてないと思われます。

なぜそうなってしまうのかを想像するに、今は YouTube で IT の情報をわかりやすく配信しているチャネルも多いのですが、そういったある種尖った研修内容にしてしまうと受ける側の企業から文句が入ったりすることもあるかと思います。また、無数の会社へ研修を行うため、ある程度の網羅性や画一性みたいなものを確保する必要があるかと思います。要するに「研修企業XXでは◯◯という研修をしてくれたが御社はしてくれないのか(怒)」みたいなことを言われかねないという話になります。

というわけで競争と顧客の要求などを総合的に考えた結果、形式的で地に足がついていない研修になっているのだと思います。

過度な高負荷

新人が3年後に口を揃えて「研修が実務よりも大変だった」と言います。疑似システム開発の納期寸前は残業続きになり、相当な労力がかかると言われてます。

個人的な感想としては「残業なんかさせんな」です。先述の通り、研修あがりの新人は基礎などをおさえられていません。その程度の成果しか出せないのであれば、そんな研修でいくら稼働しようと時間の無駄です。実務は文化祭ではありません。「若い頃の苦労は買ってでもしろ」と言いますが、無駄な苦労を強要する根性論は #$ の %& です。実務で苦労すれば能力的なリターンがあります。そこで好きなだけ残業すればいいだけの話です。


僕が研修あがりの新人にどれほど時間を割いて IT の基礎を説明をしたか知れません。「こんなことも研修で教えてねえのかよ」と思ったことも数知れません。

先述の通り研修企業が改善すべき点も多いとは思いますが、一方で顧客企業の要求を飲んでいる面を否定できません。研修を外注している会社は研修の果てにどのような人材になって戻ってきてほしいかを現場の意見を吸い上げるなりして真剣に検討するべきだと考えています。

英語が嫌いだった中学生が高校でよい先生に出会って英語が一気に得意になった話もある通り、教育の重要性はもっと重く受け止めて然るべきです。

今回は研修の問題をいろいろと指摘しましたが、最後に研修や教育を受ける側に問題がある場合はどのような教育を行おうと無駄だということを補足します。「馬を水辺に連れて行くことはできても、水を飲ませることはできない」という諺の通り、最終的に理解したり習得するのは教育を受ける側です。教育を受ける側が最初から聞く耳を持たない、やる気がない場合はどのような教育も無意味なのでそこは忘れないでください。

ABOUT ME
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フリーランス、システムエンジニア。 営業・販売、肉体労働などを経て 2007年から IT 業界に従事。文系出身かつ未経験者のため立上りに大変な時間と労力を要する。 新規システム開発を提案から設計・実装・保守・運用まですべての工程を担当する(実装は主にサーバサイド)。その傍ら、他業種・他職種の経験や上記立上りの経験を活かし、教育や業務標準化など、組織の育成に勤む。 私立大学現役合格、現役中退。基本情報・応用情報技術者取得、高度試験はモチベーション確保という観点から見送り。普通免許ゴールド保持者。 趣味は犬。