エンジニアであればプロジェクトに参画するために面接をすることが普通です。会社員で自社サービスや請負開発であれば会社内の裁量で要員を編成することは可能ですが、そうでなければ面接は必須になります。会社同士の信頼が高いとカジュアルな顔合せのみで実質合格が決まっているようなこともありますが、大抵の面接では合否をそれなりに厳しくすることになります。
一方フリーランス(業務委託)であればほぼすべてのプロジェクトで面接があり、それなりに競争率があるなかで面接時間内に自分が高い価値を提供できることをアピールする必要があります。
僕は会社員の頃マネージャとしてエンジニア採用に関わっていたこともあり、業務委託としてエンジニア採用の仕事をしていた経験があるので、採用側が何を考え、どのようなエンジニアを通過させるかという基準がある程度わかります。
過去の記事でもお伝えしてますが、僕は IT 業界への参画が遅く、短期プロジェクトを転々としていたため、スキルシート [1]スキルシート: エンジニアとしての業務経歴書。プロジェクトでの担当業務、使用した技術などを記載する。 の見映えがとても悪く、エントリー後、最初の書類選考でほとんど見送りとなります。但し、面接まで通れば比較的高確率で合格となっています。実績としては 100% 合格、と言いたいところですが期待値のアンマッチなどもあるせいで実際は 50% 程度です。
本日は僕が面接で合格となるべく、どのようなことをしているかお伝えして、面接が苦手な方の参考になれば幸いです。一部業務委託のみの話も含みますが、会社員の方でも有意義な内容になっていますので、是非最後までご覧ください。
基本的な考え方
仕事でもプライベートでも意識すべきことは準備 8 割という考え方です。何も準備をしなければ自分の能力、つまり瞬発力や頭の回転速度だけで勝負をする必要があるため、自信がある人はよいですが、そうでない人は必ず万全の準備をするようにしましょう。僕は頭が悪いので、準備なしに面接に臨むことはありません。
自己紹介を準備する、募集要項・会社情報は予め読み込み、質問を用意する、可能な場合は面接官のプロフィールを確認する、など事前の情報で把握できる限りの情報を収集したうえで準備を進めましょう。
業務委託での注意事項
ここでは業務委託で仕事を受ける人向けに事前に行うことを先に解説します。
スキルシートを磨く
会社員はスキルシートのフォーマットが会社共通のものになります。一方でフリーランスや副業正社員はフォーマットが決まっていないため、極力読みやすくスキルが明確になるようスキルシートをカスタマイズしましょう。
僕が注意しているポイントは以下の通りです。
- プロジェクトは直近から過去に遡るように並べる
- 面接官は直近なにをしたかが知りたいため
- 同じ顧客をわかるようにしておく
- キャリアが長くプロジェクトの異動が多い人向け。顧客都合や会社都合によるプロジェクト異動を明らかにするため。
- おおまかなキャリアを別記する
- 僕の例を以下に記載します
- 2007 年 IT 業界に参画、メインフレーム中心に基本設計以降に従事
- 2013 年から Web システム開発に携わり、Java の開発を中心に要件定義以降に従事
- 2017 年から営業へ転属、人材の営業と並行して RFP 対応も行い、受注した業務を自ら実装して納品(以降 PHP メイン)
- 2019 年エンジニアに復帰(一部兼任)、以降 PM として要員の管理を行う傍ら、PL として開発の標準化やインフラも兼任
- 2021 年独立、業務委託として同じく PM, PL としてプロジェクトに参画。
- スキル別に実績年数をまとめる
- キャリアが浅い、またプロジェクトが少なくてすぐにわかるようなキャリアでは不要
- 僕の例を以下に記載します
- マネージメント、テックリードの経験で具体的にどのプロジェクトで何をしたかをまとめる
- PM, PL の経験者に限る
応募を受けた企業が気にするのは「欲している人材に相応しいかどうか」という点です。書類では口頭で説明する余地がないため、極力チェックする人の労力がかからない、かつ求人に相応しい人材であることがわかるようにしましょう。
エントリー時点でアピールする
エージェントを使わず、個人で企業とやり取りする場合に限りますが、何らかのサービスを利用していればエントリーの際に質問やアピール文を送ることができます。
この際に自分の経歴のうち、どのような経験がエントリーした求人に見合っているかを記載します。例えばこんな感じでしょうか。
この度貴社求人にエントリーさせていただいた XX と申します!
20xx – 20yy 年のプロジェクトは Laravel を使って実装していました。CI を導入し、構文にエラーがあると Push できないようになっていたため、各々 CodeSniffer で検知するようにしていました。このような経験は貴社プロジェクトでそのままお役に立てるものと考えております。
また、PdM と相談して UI を直感的にするようにユーザへ提案し、採用された経験も複数回あります。貴社プロジェクトにおいても積極的にサービス改善の提案ができればと思います。
お手数ですが、ご検討の程、宜しくお願い致します。
先述の通り、僕は書類選考が弱いため、ここにはかなり力を入れています。この例では充分経験がある募集要項に応募していますが、少しチャレンジングな求人、つまりあまり経験のないスキルや分野に応募する場合は、「XX という経験はありませんが、過去に YY という業務を行いゼロからでもお客様に満足いただく成果を上げています(スキルシート No.n)」などチャレンジしてもちゃんとできます、というアピールをするようにしています。実際経験ゼロ、或いは数ヶ月のプログラミング言語であっても採用された経験はあります。
ここで僕と同じようにキャリアが汚れてしまったいる方向け、或いは書類選考での落選率が高い人向けの補足となります。ここまでスキルシートを磨いて、エントリーでアピールしても落ちるものは落ちます。これらの工夫は続ける前提になりますが、書類選考での合否はどうしても偶然の要素が残ります。僕も面接官をしていたことがありますが、書類選考については数が多いので結構適当だったりします。これまでのキャリアが偶然その企業さんにとって魅力的でなかっただけの話です。個人の尊厳や能力とは一切関係ありません。落ち込まずに、エントリーしたらその時点もう忘れて、次の求人を探すくらいの気持ちで挑むようにしましょう。大丈夫です、求人はたくさんあります。
前提事項をあわせる
エントリーした時点で可能であれば、自分が許容できなような条件がないか確認しましょう。企業によっては募集人数を確保するために募集要項にはあえて余白を残していることがよくあります。例えば僕の場合だと「リモート相談可」という求人には必ず出社希望日数を確認します。僕はプロジェクトを兼任している関係上頻繁に出社ができませんので、例えば週一出社などと言われると対応できません。というか都内が遠いし、運賃もかかるし、何よりめんどくさいので出社したくないです。
またエントリー後、チャットやメールで募集要項と異なることを伝えられた場合、それが自分で許容できないような場合はその時点で辞退するようにしましょう。最近多いのは「正社員になってくれる人を優先したい」というケースで、僕は正社員に戻る気はないのでその時点で辞退、もし必要になったら再度声をかけていただくようにお伝えしています。例えばここで自分が許容できないような条件があって、相手に悪い印象を持たせたくないとか、或いは業務を急いで探しているような状況において、とりあえず駒を進めて、内定後やはり辞退するとなるとかなり印象が悪いです。お互い時間も勿体ないし、何より失礼です。僕は人の時間を奪うことにも自分が奪われることにも敏感です。前提が合わない場合はすぐに辞退することがお互いのためだと考えています。
また、幾つかの求人サービスではスカウト機能があり、プロフィールとスキルシートを公開することで企業からスカウトを受けることが可能です。ありがたいことに業務の半分はスカウトでいただいておりますが、ここでの応対に違和感がある場合はどれほど魅力的であったとしてもお断りすることがあります。極端にレスポンスが遅い、会話が噛み合っていない、などの場合はその時点で辞退します。詳細は別の機会があれば言及しますが、そのような人を採用の窓口としている企業に疑問を感じるためです。これはエントリー後のやり取りでも同様で「なんかちょっと変だな」と思ったら、自分からエントリーしながら申し訳ないのですが辞退することにしています。
自己紹介文を用意する
ここからは会社員・業務委託共通になります。
ここでいう自己紹介とはエンジニアとしての自己紹介であり、エンジニアのキャリアにフォーカスして自己紹介をします。先程の「スキルシートを磨く」のところで紹介した「おおまかなキャリア全体を別記する」で記載した文を読むことでよいかと思います。オンラインであれば事前にメモを残して、面接中はメモを見ながら話すのがよいと思います。オフラインかつ会社員でスキルシートに自己紹介文を書けない人は、予め自己紹介文を用意して読み込んでおいて、スキルシートを軸に話すとよいでしょう。
多くの人は自己紹介文を用意していると思いますが、これをするメリットは事前に情報を整理できることでアピール漏れの予防にもなります。そして基本的に定型文で話すことで、何度も繰り返し話していくうちに慣れてきて余裕が出てくると思います。僕は極度のあがり症なのでアドリブで話すことができませんが、そうでない人も事前に台本を用意するようにしましょう。人間の脳は驚くほど頼りにならないので、自信があっても万全の準備をすることをオススメします。
また、経験 3 年未満の若年者であれば、ひとつふたつのプロジェクトにしか参画していないことが多いため、自己紹介が簡素になってしまうこともあると思います。そのような場合は最終学歴や在学中に開発や研究の実績があればそちらを加えるのも有効です。
尚、自己紹介文ではありませんが、実績がわかる資料やサイトで公開可能なものがあれば面接時に見せられるように準備します。これはオンラインに限りますが、高い効果が見込めるため、出来る限り用意しましょう。僕は手元にドキュメントのフォーマットがあるため、社名やサービス名があればそれを伏せて実績例として加工しています。
募集要項を読み込む
当たり前のことですが、募集要項は読み込むようにしましょう。条件面も重要ですが、業務内容、つまり参画後自分がどのような役割で何をするかを確認することが重要です。またどのような背景でエンジニアを集めているか、欠員の補充なのか増員なのか、増員であればなぜ増員が必要か確認します。
正社員であれば営業から求人内容が展開されると思いますが、同じく詳細は確認するようにしましょう。
これまでの観点でわからないことがあればそれは質問としてメモを残しておきましょう。
企業 HP を読み込む
取引実績のない顧客であれば HP で会社の概要(所在地・沿革・従業員数など)、どのようなサービスを展開しているかを確認します。これは将来の顧客候補を知るという意味で必要な行為で、事前に顧客情報を収集することで面接中にちょっとした雑談やこぼれ話などを引き出せる可能性があります。SIer や大手企業であればあまり有効ではありませんが、スタートアップやサービスプロバイダであれば創立の背景や理念などを頭に入れておいて、面接で一言共感の意思を伝えることも有効です。
また、HP でしか知り得ないことを面接で伝えると「自社に興味を持っているな」という印象をもたせることができます。
ここでも質問があればメモを残したほうがよいですが、HP から考えられる質問は実務に関係ない内容になりがちなので、実際に質問するかはほかの質問との優先順位によって考えるようにしましょう。
面接官を事前に調べる
これは面接先が中小企業に限りますが、面接官が予めわかっている場合は HP に顔や経歴が載っていないか、X や Facebook を利用していないかを確認します。情報がなければ仕方なし、情報があればその人の経歴やポストされた内容で自分と共通するところや共感するところがあればそれもメモを取っておきます。HP と同様、優先順は低くなりますが、ツカミや予備の質問としてストックすることにします。
質問を用意する
ここまでで募集要項、HP、面接官情報から質問をメモしてきましたが、ここで質問を一覧化して優先順位をつけます。先述の通り、業務内容に関する質問が最優先として、その中でも特に気になるところや互いにメリットとなるような質問をするようにします。ここで必須の質問は印をつけて、ほかの質問は時間に余裕がある場合にするようにします。イメージとしては 10 質問を用意して、実際には 2, 3 質問する程度が適切だと思います。
質問の内容は募集要項にもよりますが、僕がよくする質問は以下の通りになります。
- プロジェクトの体制
- 回答例:PdM 1 名、デザイナ 1 名、フロントエンジニア 2 名、サーバエンジニア 2 名
- 現状の課題と取組み
- 回答例:開発初期段階でルールがなくプログラムが読みづらい、ドキュメントがない、ユーザ増加に伴い性能が劣化
- プロジェクトの中長期的計画
- 回答例:特定の機能を拡充してユーザ数の増加を狙う、n 年後の上場に備えて xx という機能を追加する
- プロジェクトに参画した場合具体的に行う作業
- 回答例:PM からタスクを割り当てる、レビューを依頼している間に別のメンバのレビューを行う・次のタスクの設計を行う、n 日周期でリリース作業を行う
あたかも自分がプロジェクトに参画しているかのように仮定して、イメージできるような質問をすることで、企業側もイメージを持てる効果があります。
加えて、質問が技術的な内容になる場合、draw.io などの描画ツールで図に起こして画像ファイルにして面接中に共有するのも大変オススメです。(オンラインの場合)
注意が必要なのは「その質問をしてどうするの?」みたいな質問はよほど感触がある場合を除いて差し控えることをオススメします。例えばサービスの終了時期のような不確定な情報や年間の予算など視座が高すぎる情報、面接官の個人的な話などです。
面接中の諸注意
ここから面接の話になりますが、ほとんどの面接では以下の流れになります。
- (取引実績なしの場合)会社説明、業務内容説明
- エンジニアの自己紹介 → 企業からキャリアに関する質問
- エンジニアから質問
面接は挨拶もそこそこに特にアイスブレイクもなく始まります。余裕があれば、企業からの説明中は気になるところをメモに取ってのちほど質問するのもオススメです。ただ、これは高等テクなので、無理のない程度にしましょう。
尚、ステップ②の自己紹介部分と③については準備をしたものなので、面接の半分は準備ができる、ということになります。残り半分に集中するようにしましょう。
また面接中僕は以下の点に気を付けています。面接でどう振る舞ってよいかわからない方は参考にしてみてください。
第一印象が重要
人間の第一印象は出会って 6 秒で決まるとされ、そこで悪い印象を持たれた場合覆すためには相応の労力が必要となります。少なくとも面接中に覆すことは不可能なので、注意しましょう。例えば面接開始時は笑顔でいる、オンラインであれば相手に確認される前に名乗り、「本日はお忙しいところお時間いただき本当にありがとうございます!」とはっきり言うなどを心がけましょう。
表情に気をつける
笑顔は重要ですが、笑ってばかりだと印象が悪いため、企業の説明を傾聴するときは真面目な顔で相づちを適度に打つようにしましょう。自分が話す場合は笑顔と真顔の中間くらいを維持するとよいです。
好意的に接する
なんにつけ面接官に対しては好意的に接するようにしましょう。つまり愛想よく振る舞いましょう、ということになります。面接官は名実ともにお客様なので常識の範囲でお客様として扱うようにします。
例えば企業担当者が遅刻したり、メールやチャットを見逃していてスキルシートが手元になかった場合、謝られることがあります。当然この際に相手を責めるのは論外だとして、相手に過失は気にしていないことを明言します。「いえ、お忙しいと思うのでどうぞお気になさらず」くらい言えば余裕を感じることができるし、相手も好意的に感じるでしょう。
可能な限り画面を共有する
オンラインに限りますが、自己紹介の際にスキルシートを積極的に画面共有することで、ポイントを絞りながら自己紹介することができます。また、自分の実績で公開してよいサービスや企業名を伏せた設計書などを画面共有することで実績や能力を具体的にアピールすることができます。
質問には正直に回答する
面接官から痛いところを付かれることがあります。僕の場合プロジェクトを転々としていることやドメイン知識や特定のスキルの経験が浅いことについて言及されることがあります。そのような場合は「証明することはできませんが、お客様都合、会社都合によるものです。逆に毎回変わる業界や技術でもビジネスや IT の基礎をおさえているため、素早くキャッチアップすることができます」と回答しています。
自分がされたくない質問こそ面接官が納得できるような回答を予め考えておきましょう。この場合何の根拠もなく根性論やハッタリを言ってもそれは通用しません。多少引け目はあるものの、過去の実績から今回も遂行できるというふうに話をしたほうが好印象だと思います。
質問は適切に
質問を予め用意することはお伝えした通りですが、企業の説明ですべて解消された場合は「質問はありません」と言うのではなく「質問は先程の説明ですべて解消されました、ありがとうございます」と言うようにしましょう。
質問がないと二つ返事で回答すると興味がないと受け止められるため基本的には厳禁と覚えておいてください。
どのプロジェクトでも共通して、スキルがマッチするのはもちろんのこと、それと同じくらい主体性があって、コミュニケーションがしやすい人材を求めています。今回紹介した面談の手法は圧迫感がない程度にほどよく主体性を感じる(自分だったらこういう人に主体性を感じる)ことに一役買うようなものとなっています。僕はこれを攻めの面接と読んでいます。
僕の場合、主体性を意識するあまり、無意識に面接の進行や主導権まで握ろうとしてしまうことがあり不合格となったことがあります(笑)また、楽しそうなプロジェクトは参画したいあまりに資料作りに凝ったり、熱意を伝えすぎて引かれることもありました。
面接の主幹はあくまで面接官、あくまでコミュニケーションの場なので、「これを言わなきゃ」という気持ちが強すぎて相手の話を聞かなかったり、話が噛み合わなかったら本末転倒です。どちらも取り残されることなく、歩調を合わせることは忘れないようにしたいですね。
脚注
↑1 | スキルシート: エンジニアとしての業務経歴書。プロジェクトでの担当業務、使用した技術などを記載する。 |
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