前回はフリーランスのメリットについて説明しました。今回はその反対にフリーランスのデメリットとそれに対する僕の見解をお話したいと思います。
いきなり結論となりますが、年齢や家族構成に多少依存はするものの、一人前のエンジニアであればフリーランスになるデメリットはなきに等しいと考えています。なぜそう考えるかについて説明します。
まず前回お話した、フリーランスエンジニアのメリットを以下に再掲します。
- 業務量が豊富
- 会社員と比較して収入が著しく増える
- 節税が幅が広く、気軽に自己投資できる
- 働く時間、場所が制限されない
- 上下関係がなく自己研鑽に集中できる
- 無駄な社内政治や評価を気にせずエンジニアリングに集中できる
これを整理すると、「業務が安定する」「収入が増える」「煩雑な人間関係に悩まない」に分けることができます。
一方でフリーランスエンジニアのデメリットは一般的に以下のものが上げられます。
- 業務が不安定
- 社会的信用が低い
- 社会的補償が薄い
- 業務上の人間関係が希薄
- 常日頃のスキルアップが必要
- エンジニア以外の業務が煩雑
メリットを踏まえ、それぞれについて説明してきます。
フリーランスのデメリット
業務が不安定
これはメリットで上げた「業務量が豊富」と矛盾しますが、前回も説明した通り、一定の能力をもったエンジニアであれば、エージェントを利用することで豊富な業務量を確保することができます。以上を踏まえたうえで不安定な状況は以下が想定されます。
反対に、自力で営業して仕事を受注することは大きなハードルとなります。一般的なフリーランスの印象はこちらが強いのではないのでしょうか。自力で営業することで価格的な恩恵は受けることができますが、契約行為の手間や不払いのリスクを考えると、信用できる顧客を独自で獲得できないうちはエージェントを使うほうがメリットは圧倒的に多いと考えられます。僕はフルコミットをしないため、その中間(マッチング+直契約)となる副業クラウドを使うことが多いです。
このほかにも業務の切れ目できれいにプロジェクトが異動できないこともあげられます。主にフルコミットしていない場合に発生するのですが、例えば 80h/月 稼働しているプロジェクトが終了となった場合、1 〜 2ヶ月以内に同じ条件のプロジェクトが受注できない状況が充分発生しうる、ということです。エージェントを経由していない場合はお客様都合により突如契約終了となる可能性もあります。逆にフルコミットしていても契約書に契約終了の告知義務がない場合はこまめに確認するか、怪しい雰囲気を感じたら営業を開始するなど、自衛するようにしましょう。
社会的信用が低い
これは何もエンジニアに限った話ではありませんが、フリーランスは社会的信用が低いものです。実際の弊害になることは、
- 金融機関で融資が受けられない、またはクレジットカードが作れない
- 結婚相手やパートナー、その家族に理解を得られない
以上の 2点です。まず、前者については特に独立後、日が浅い場合に多いようですが、特に借金をする予定がない場合は心配無用です。もし、車や不動産など大きな買い物をする予定があれば、独立前に購入するようにしましょう。また、クレジットカードについても、大抵の人はクレジットカードを持っていますし、持っていない人で今後必要となるのであれば、会社員であるうちに申請しましょう。尚、僕自身はもともとクレジットカードを持っていたのですが、会計処理を効率化するため、フリーランス向けのクレジットカードを申請しました。独立直後に申請しましたが、フリーランス向けなので問題なく取得することができました。
多くの人にとって問題になるのは後者の方になります。独立後に構築された人間関係であれば、こちらがフリーランスである前提でお付合いが始まるので問題ありません、当然ですね。一方、交際後や入籍後に会社員からフリーランスに転身するとなると心配されたり、止められることも珍しくありません。もし相手を説得できたとしても、相手の家族が納得しないこともあるでしょう。これは世間一般におけるフリーランスのイメージが悪い、というよりは、フリーランスというものがよくわからないということに起因します。なんとなく自由で業務が不安定だというイメージが先行しているためです。
僕が独立して両親に打ち明けたときにまず心配されたのが老後の資金です。フリーランスの老後資金について、詳細は別の記事に譲りますが、結論としては充分な対策は可能です。なのでそこを理論立てて説明すること(何を知り、どう行動しているか)で最終的には納得してもらう形になりました。
また、別の記事でも書きましたが、エージェントを介して仕事を受注するフリーランスエンジニアは、働き方が会社員と大きく変わりません。但し、ほとんどの場合受託契約(準委任契約)となるため、労働基準法が適用されませんので、労働時間や休暇は自分で管理する必要があります。
人によって心配するポイントが異なりますが、それがどのようなことであっても対策は打てるし、打つべきだと思います。フリーランスの実務がよくわからないという人には一日の業務をどのようにこなしているか、具体的に説明するなどしてまずは実態を理解してもらうことから始めましょう。
また、考えられる限りの対策をして、それを説明してもなお、納得してもらえないこともあるでしょう。その場合は相手が感情や偏見を拭えていない状態なので、逆に感情に訴える必要があるでしょう。理屈で説いて、感情で説いたら、あとは時間が解決することを待ちましょう。逆にそこで相手に説得されて揺らぐ程度の熱量であれば、独立することは思い直したほうがよいかもしれません。ただ、あなたの人生に責任を持つのはあなた自身です。それだけは忘れないでいてください。
社会的補償が薄い
こちら家族構成や年齢によっては最もインパクトがあるかもしれません。社会保険について詳しく解説すると長くなるため、概要にとどめますが、フリーランスは会社員と比較して社会保険の範囲が狭くなります。例えば、年金は厚生年金がなく、国民年金のみとなり、支払額も減りますが、その分受給額も減ります。また、健康保険は国民健康保険となり、高額になりがち、かつ家族を扶養に入れることができません。失業保険(正確には雇用保険)という制度もフリーランスには存在しません。フリーランスは、例え望んだとしても厚生年金や健康保険へ加入はできません。これはフリーランスの補償が薄いという言うよりは会社員が非常に厚いと言えます。これに対する僕の所感をお話します。
まず年金ですが、多くの人がご存知の通り、少子高齢化の影響で、現在の受給者と同様の金額が受給できるとは考えづらいです。また、会社員は国民年金+厚生年金のセットで加入します。一方フリーランスは国民年金のみの加入となり支払額が減るのですが、その分を別の制度への資金とすることで年金以上のコストパフォーマンスが期待できます。
健康保険についてですが、たしかに国民健康保険に健康保険の補償範囲の広さをカバーできません。特に家族を扶養にできないのは現役世代の少ない家族が多い人には辛いでしょう。これについては、会社員を辞める際に加入中の健康保険を任意継続して最大2年間延長することができますが、金額はおよそ倍になるうえ、2年後強制的に国民健康保険になります。これがエンジニアがフリーランスになった場合、年収(正確には売上ですが)を倍にしないと割に合わないと言われる所以です。
国民健康保険の負担はパートナーが会社員であることで大きく回避可能です。パートナーが会社員であれば会社の健康保険が義務となり、もしお子さんがいればお子さんも含めてそちらの不要に入れば、国民健康保険への加入は個人事業主である本人だけの加入で済みます。
パートナーがいない状況でも別の方法で補填するのが妥当かと考えています。フリーランスと会社員の決定的な違いに、収入=事業取得である、ということです。事業所得は確定申告が必要であり、課税所得は自分で算出して税金を収める必要があり、その工程で会社員では利用できない様々な手段を使って節税することが可能です(これらについて詳細は別記します)。フリーランスには会社員が加入できない制度が幾つかあります。小規模企業共済、フリーランス協会の所得補償制度、経営セーフティー共済などが該当します。これらは保険や年金の代わりになるうえ、支払金額は経費として計上可能です。また、iDeCo は会社員同様利用可能、かつこちらも経費として計上可能です。
もちろん、当然業務上必要な備品などは経費計上することもできますので、会社員であるころより財布が痛みにくいのも大きなメリットと言えるでしょう。売上を減らすことでしか国民健康保険の金額自体は減額できませんが、ほかで補うできることを把握しておくとよいでしょう。
最後に雇用保険についてですが、雇用保険は疾病や失業などを補填する役割であるため、それらについては予防に勝る治療なし、というのが僕の立場です。日頃から以下を意識しています。
- 病気にならない生活を心がける
- 失業しないように能力を高める
- 精神が病むような人間関係から離れる
運よく健康な肉体に生まれたこともありますが、僕は嫌いな食べ物というのがほとんどありません。そのためバランスよく食べ、身体を動かして病気を予防しています。リモートワークのため、感染症予防もしていますし、交通事故のリスクも低いはずです。
持病などでなく、頻繁に風邪を引いて仕事を休む人に限って自己管理ができていないように思えます。当然やむを得ない理由により働けない人がいることも理解していますが、最大限リスクは自力で取り除くべきです。フリーランスを直訳して傭兵=自由と理解するのではなく、自分を管理する権利がある、と理解してください。
業務上の人間関係が希薄
携わるプロジェクトにもよりますが、フリーランスに発注をする企業がフリーランスに期待することは、システムに関する課題を解決すること、この一点です。そのため、個人的な人間関係を業務上で構築しづらいのは当然のことと言えるでしょう。システム開発に良好な人間関係構築は必須ですが、それはあくまでプロジェクトのメンバとしての人間関係に留まります。
人によってはこれをデメリットと考える人もいるかと思われますが、ウマの合う人とそうでない人の割合で言えば、後者の方が圧倒的に多いのではないのでしょうか。要するに、嫌な人と付き合わなければならないデメリットを考えたら、平等に業務上の人間関係と割り切った方が精神衛生上良好だと思います。
個人的に、一緒に食事をする人と一緒に仕事をする人は充分に選びたいと考えているので、この状況は寧ろ歓迎です。モラルを大きく逸脱するような人間と付き合う必要があれば、プロジェクトを変えてしまえばすべて解決します。人間関係のトラブルの多くは「繋がれないこと」でなく、「離れられないこと」にあると言えるでしょう。
フリーランスは会社など特定のコミュニティに依存しません。そのため、主体的に人間関係を構築する必要がある一方で好きな相手とだけ付き合うことができます。そうです、必要であれば自分から構築しにいけばよいのです。現在は SNS などで趣味が合う人を探すことはそれほど難しいことではありません。
常日頃のスキルアップが必要
フリーランスに限らずエンジニアであればスキルアップは必須です。勉強したり、スキルアップしたくないという人がいるのなら、フリーランス以前にエンジニアに向いていないので、別の職種に転身しましょう。これは嫌味ではなく、人は自分が能動的に遂行できる業務に従事すべきだと考えているためです。
尚、フリーランスだからという理由で特別に何か難しいことを要求されたことはありません。これは、フリーランスだから重い責務を任せられない、という意味ではなく、エンジニアは会社員・フリーランスにかかわらず、無理難題を押し付けられることに変わりはない、という意味です。僕自身、会社員の頃から現在に至るまで、難解な問題と向き合っていることに変わりはありません。難解な問題を解決することに仕事の本質があるためです。
まあ外郭はさておき、フリーランスはスキルアップすることで自分の市場価値を即時高めることができます。そのため、スキルアップする習慣を身につけることで将来が安泰なことも事実ですが、スキルアップできるプロジェクトにうまくアサインすることも同じくらい重要です。エンジニアの第一印象は技術経歴書で決まるので、いくら個人的に研鑽を重ねていても実務経験のないスキルにチャレンジできる機会にはなかなか恵まれません。そのため、今後伸ばしたいスキルはまず個人的に学習を進め、ポートフォリオなど見える形でアウトプットするか、現在所属する組織の別プロジェクトへスライドできるよう、現在のプロジェクトで成果を上げるのもよいでしょう。この辺は詳しく書いていくと長くなるので、別記することにします。
エンジニア以外の業務が煩雑
これが人によっては最も大きなデメリットかもしれません。フリーランスがプロジェクト以外で必要な業務は幾つかありますが、どのような形態であっても、確定申告用に会計処理は必須となります。僕は会計サービスを利用していて、自力で作成することに比べてだいぶ効率化されているはずなのですが、それでも労力がかかります。また、節税に関する知識も自分で収集する必要があります。
僕個人としては、会計処理が性に合っていたようで、あまり苦になりません。まあ、こういった人間は例外でしょう。
プロジェクト参画時はNDAと基本契約、個別契約を締結します。また毎月請求書を発行していますがエージェントをこちらはエージェントを経由すれば省略可能です。但しエージェント経由であれば作業報告書を提出することが一般的です。請求書については会計ソフトを使ってますが、ネット上に幾らでもテンプレートはあります。
僕自身法律に決して明るいわけでもなく、これらの書類はかなり苦手な方だったので、はじめはエージェント経由で受注していました。今では敢えて請求書が必要な契約としています。ただ、これらはあまり得意でない人にはつらい作業でしょう。
ここではデメリットとしてますが、会計や法律について知識を蓄えること自体はフリーランスとして必須です。会計については上手に節税して手元の資金を増やすことができますし、最低限の法律を把握することで業務上致命的なトラブルを予防することができます。
以上、フリーランスのデメリットについて話をしてきました。冒頭で一人前のエンジニアはフリーランスになるデメリットがほとんどないと言いましたが、デメリットをどのように対策すればデメリットでなくなるかをそれぞれまとめます。
- 業務が不安定
→ 対策:エージェントや斡旋サービスを利用することで豊富な案件が受注可能。 - 社会的信用が低い
→ 対策:必要であれば会社に所属しているうちにローンやクレジットカードを申し込む。また、パートナーや家族を安心させる意味でも、可能な限り万全な状態で独立の準備を進める。 - 業務上の人間関係が希薄
→ 対策:業務上の関係はあくまで仕事の付き合いと割り切る。気の合う人はこれまでの人間関係を活かすか、SNS で気の合う人を探す。 - 常日頃のスキルアップが必要
→ 対策:エンジニアであれば当然。学習が苦にならないような習慣を取り入れる。 - エンジニア以外の業務が煩雑
→ 対策:最低限の会計や法律知識はフリーランスとして必須なので、避けずに学習することで大きなメリットとなる。
いかがでしたでしょうか。こちらも繰り返しになりますが、僕自身は独立して、今のところ不利益を感じたことはありません。
年金制や年功序列が崩壊しつつある現在の日本では、フリーランスを支援する方向で舵が切られており、この傾向は今後より進んでいくでしょう。国からのメッセージはシンプルで「自分の面倒は自分で見ろ」といったところでしょうか。(でもインボイスはイケてないですね)
少しでもフリーランスに興味がある方の後押しになれば幸いです。