ブラック企業というものが、まず入社してはいけない会社、入社してしまったならすぐに退職すべき会社であり、それについては疑いようのないことだと思います。例えば、管理職などの要職がパワハラマシーン、常軌を逸した言動をするようであれば今すぐ転職するべきでしょう。同様にもし要職でなくても、このような人物がいるような会社は要注意です。いつ自分に矛先が向くかわからないので退職の準備をしましょう。
さて、ひとりふたりの人物を見て退職するというのは気が早いと思いますか?実はそうでもないです。要するに、常軌を逸した人物を採用したり、要職に据えたりする場合は経営陣がすでに常軌を逸している可能性が高い、というか間違いなく常軌を逸していると思って良いです。是正を促さないとか、そもそもパワハラに気付いていないのであれば、それは自身の会社に興味がないということになります。会社をよくしようと思っていないということですね。子供の頃に立派に思えた大人が、いざ自分が大人になるとそうでないことに気づくように、経営者がみな立派なわけではありません。寧ろ立派な経営者のほうが稀です。
マザー・テレサは言いました、「愛の反対は憎しみではありません。無関心です」。自身が経営する会社に興味がないということは、そんな会社に所属する社員は、緩やかに、但し着実に心中に付き合わされることになります。変化・改善のない会社に未来はまずありません。誰かが改善を促しても、会社の主幹である経営陣にその気がなければどうにもなりません。経営者の推進力がダイレクトに反映される中小企業であれば尚更のことです。
僕自身も経験したことですが、パワハラマシーンやモンスタークライアントによって数ヶ月サンドバックされた結果、その倍以上の期間療養することになりました。療養と言っても、仕事はしていましたが、本調子に戻るまで長い時間がかかりました。これが通院や入院という事態になっていたら経済的にも相応の打撃を受けていたでしょう。
さよならしましょう。
さて、ここからが本題ですが、ブラックをクリアしたあと問題になるのが、仕事を取れない、つまり営業力のない会社です。個人的にはブラックと危険度はさして変わりありません。
もしあなたがすでに会社に所属して SE として働いていて、次のプロジェクトが決まらず社内失業状態になったり、取り敢えず炎上プロジェクトの手伝いをさせられたりしているなら、すぐに会社を変えましょう。コロナ禍で混乱の世の中でさえ売り手市場だった IT 業界において、仕事が取れない、或いは炎上プロジェクトを受注する(仕事を選べない)ようでは会社として営業力なし男くん(或いはなし子ちゃん)です。
これも経験したことですが、僕がかつて所属していた会社は創業以来主に一社の SIer[1]システムインテグレータ:システムを立ち上げる業者の総称だが、業界の慣習として、大手一次請けシステム会社を表すとそこから派生した関連会社以外と取引をしていませんでした。2000年代から2010年代前半まで SE の需要は現在ほど高いものではなく、要員が余ってしまう事態にしばしば遭遇していました。プロジェクトに技術者を派遣して(雇用形態は正社員でしたが)利益を得る多くの IT ベンダにとって要員の派遣先[2]プロジェクトに要員を配属させることをアサインと言うが決まらないことは人件費がそのまま赤字になることを意味します。
そこで数少ない取引先に一点集中で営業するものの、営業をかけられる SIer としてもそもそも仕事がなく、当然発注することが難しいわけですが、義理や付き合いもあって色々と考えて仕事を探してくれたりします。そこでやっと捻り出せるような仕事は…はい、炎上している、というわけです。炎上プロジェクトに従事した経験のある方は多いと思いますが、炎上する工程に立ち会える機会は稀です。エンジニアが関わる段階ですでに炎上しているのです。
炎上の大きな流れとして、
- まず発注元に強権を発動する決裁者がいてシステムに要望を出す。この時点でなぜか納期だけ確定している
- SIer 或いは発注元に要望の詳細を確認する担当者がいて要件を整理する(要件定義)
- 発注元が要望の詳細を整理できず、時間だけが過ぎる
- 痺れを切らした SIer が委託先(われわれ末端エンジニアを抱える会社)に開発を依頼する
- 開発中に要件が順次確定し、その内容は当初の要望から概ね乖離している(無数も手戻りが発生)
- すべての要件が確定するが、その時点で開発期間は半分以下になっている
とこんなところでしょうか。その後は火に薪を焚べるが如く技術者を次々に投下、月に5人増え、3人位が脱落する(その多くは行方不明となる)といった事態が慢性化します。一ヶ月休みがない、家に帰れない日などは至って日常です。
上記では 3人の登場人物がいます。発注元、SIer、委託先の 3社です。われわれエンジニアからみた場合、一番の悪者はなんだと思いますか?そうです、エンジニアが所属する組織、つまり委託先です。
一見発注元が悪者にみえるでしょうか。スマホの普及などにより IT の知見が一般にも浸透している現在では以前に比べ、モーレツな発注元[3] … Continue readingはだいぶ減った印象はありますが、それでもモーレツなお客さんというのはいるものです。そしてモーレツなお客さんを変えたり、やっつけたりすることは絶対にできません。これは人間関係と同じです。他人は変えられないのです。
つまり、そんなお客さんの仕事を SIer から断れない委託先が問題なのです。いくらでもエンジニアを欲しがっている会社、システムはありますし、成果を出せば料金もその分追従していきます。2024年時点でフリーランスの立場として、選り好みさえしなければ、業務がなく困ることはありません。ある程度自分の好みの業務が選択可能です。所属するプロジェクトでも顧客には信頼をいただいており、寧ろそのことで自分を律する動機となっています。信念を持って真面目に探せば優良な仕事は必ず見つかります。新規営業もせず、その結果仕事がないから火事場にエンジニアをアサインするようなことは怠慢で冷徹と言わざるを得ないでしょう。エンジニアという社会の貴重な財産を燻ぶらせているという意味では社会的にも問題です。言い過ぎでしょうか。
最後になりますが、すべての帳尻を合わせるのは、発注元である大企業の部長でも、100人を束ねる歴戦のマネージャでもなく、政府の偉い人でもなく、動くものを作るわれわれエンジニアです。社間でのトラブルで誰かが来なくなったり、絶対無理な納期で契約したり、毎日変わる仕様に最後まで付き合うのはわれわれエンジニアです。プロジェクトは開発に着手した時点で勝敗が決定します。発注元の言いなりになって、とんでもない仕様と納期が約束された時点で負け戦が確定します。あとは炎上からどう傷つかないように負けるかの勝負なのです。例え悪意がなくとも、それが理解出来ない会社、エンジニアを犬か猫のように扱う会社に長期間関わってはいけません。われわれは誰かの食い物にされるために、何年もかけてエンジニアになったわけではありません。
自分を大切にしましょう。自分を大切にすることであなたの大切な人たちを大切にしましょう。
脚注