IT 業界にこれから就職、転職される方向けに IT 業界の成立ちについて説明致します。
IT 業界への参画を決意し、一分一秒でもプログラミングの学習に充てたい、という気持ちはわかります。「業界の仕組みなんてどーでもいいんだよ!!」と思う方もさぞいることでしょう。ただ、残念ながらどの業界についても学習が不要ということはありません。
- 鳶職になりたいけど建築業界のことは知らなくてよい
- 看護師になりたいけど医療業界のことは知らなくてよい
- ドコモショップに勤めたいけど通信業界のことは知らなくてよい
- ユニクロに勤めたいけどアパレル業界のことは知らなくてよい
ということにならないのと同様です。まずは業界の仕組みを理解し、自分がこれからどのような役割でそこへ参加し、どのような成果が期待されるかイメージしましょう。スポーツでもなんでも、イメージトレーニングは必要です。自分がどのようになりたいかをイメージしましょう。人間はイメージしたものにしかなれません。本記事がその一助となれば幸いです。
IT ビジネスとは
IT エンジニア(以下 SE)とはどんな仕事でしょうか?また、 IT ビジネス(IT 事業)とはなんでしょうか?ここはまず回答できるようにしておきましょう。
そもそも IT ビジネスの前に IT とはなんでしょうか。知らない人、例えば IT の知見がない、あなたの家族や友人に IT とは何か、と聞かれてどう説明しますか?
IT(Information Technology)とは情報技術のことで、いろいろな言い方がありますが、要するにコンピュータ(PC やスマホ)が提供する機能の総称です。膨大な量のデータを格納・閲覧可能であらゆる場面で利用されており、昨今では SNS などでリアルタイムでのデータ(文章・画像・動画)の配信、インターネット経由での多くのサービスが利用可能[1]SNS の台頭を契機に IT を ICT(Information Communication Technology)と呼ぶが、ほとんど同義。また、日常的に使われることはないとなり、生活の利便性を飛躍的に向上させています。即ち、IT とはコンピュータが提供する機能であり、究極の目的は効率化だということです。但し、最近ではスマホゲームなど、効率化と無縁のものもあるので、効率化だけでなく、IT を利用したサービスの提供が目的、と大きく括ってしまってもよいかもしれません。
従って IT ビジネスとは、 IT により、クライアントのサービス向上に貢献し、対価を受けるビジネスである、ということになります。そして SE とは IT ビジネスを実現するための技術職であると言えます。そしてその実現のために主にプログラミングを用いてシステムを構築する技術が必要となるということです。
業務フロー
ここからは IT ビジネスの業務フローについて説明していきます。IT ビジネスには星の数ほど多くのサービスが存在するため、「主に誰がサービスに対価を支払うか」で分類し説明していきます。
非公開システム
まずは非公開システムです。Web アプリにしろ、ネイティブアプリにしろ[2]Web アプリとはブラウザ(Chrome や Safari)を使って利用するシステム。それに対し、ネイティブアプリとは PC … Continue reading社外からはアクセスできないように設定されています。
秘匿性の高い業務、おもに銀行を含む金融業や保険業で採用される方式で、完全に自社の業務に特化したシステムでもこの方式が採用されます。
この場合、システム開発に対価を支払うのはシステムを使うユーザ企業[3]システムを最終的に利用する法人をユーザ企業、或いはエンドユーザ(単にエンド)と呼ばれることがあるそのものであり、内部にシステム開発部隊を組織することもありますが、SE が全く存在しないこともあります。
SE が全く存在しない、或いは SE が足りない場合はシステム開発を外注します。ユーザ企業から直接発注を受ける企業のことを元請け企業、一次請け企業と呼びます。また、SIer(エスアイアー:System Integrator + er)とは広義での元請け企業ですが、慣習としては、元請け企業かつ大手企業が SIer と呼ばれることになります。元請け企業はユーザ企業の関連会社であることも多く、ユーザ企業が大手であればほとんどの場合関連会社に発注することになります。
ここで元請け企業でも SE が足りないとなった場合は更に外注することになります。これがうまくいかず、要員が補充されない限り、二次請け(孫請け)・三次請けとなって続いて行くことになります。このように入り組んだ発注が、
- ユーザ企業から見て、コストパフォーマンスが悪く感じたり
- プロジェクトの問題について共有が遅れたり
- そもそも法令に準拠していないのではないか
など、諸問題をはらんでおり、業界のグレーゾーンとして有名なところです。詳細については本記事で述べませんが、就職の際に会社を選定する重要な要素となるので、まずは認識だけしておいてください。
公開システム
もう一方の公開システムですが、こちらは多くの人がイメージするシステムはこちらが該当します。前項と比較し、対価を支払う=サービスの利用者がユーザ企業だけでなく個人も加わります。対法人向け(B to B[4]B to B:Business to Business の略)のシステムと対個人向け(B to C[5]B to C:Business to Consumer(Customer)の略)のシステムが存在し、対象を法人個人問わないシステムも多数存在します。メルカリなど、取引に法人が登場しない C to C という取引形態もあります。
また、公開システムの多くは、システムの利用者(ユーザ企業・個人)とシステムの開発元(サービスプロバイダ)が分かれ、不特定多数のユーザが利用する想定のため、どこからでもシステムが利用できるように公開しておきます。
ここではシステムに対価を支払うのはユーザ企業・個人ですが、サービスが開始されるまでは、始めにシステム開発の費用を負担(投資)するのはサービスプロバイダとなります。また、その後のメンテナンスにかかる費用もサービスプロバイダが負担することになります。尚、この場合のサービスプロバイダをプライムと言ったりしますが、元請け企業もプライムと言うこともあります。この辺は定義が曖昧なので気をつけてください。
この方式を採用しているのは、公開している Web システム全般であり、その数は膨大です。幾つか例をあげてみます。
ネイティブアプリのクラウド化
かつて Microsoft の製品群などのネイティブアプリは CD を媒体として各自の PC にインストールし、必要に応じてインターネット経由でアップデートされていましたが、2010年代後半以降それらの多くはクラウド化し、PC にインストールしなくても利用可能となりました。それまでネイティブ専用だったアプリはクラウド化以降立派なシステムとして認知されています。これにはクラウド会計システム、クラウド勤怠システムなども該当します。逆に Zoom のようにブラウザでのサービス提供をベースとしながらネイティブアプリも提供する形態も多く存在します。
近年ではまず Web アプリとして提供し、ユーザが増えニーズが発生してからネイティブアプリを提供する動きが標準となりつつあります。
法人と個人を結ぶシステム
求人・求職サイトは多くの場合、法人から対価を受け取り、個人に無料で提供しています。また、通常の EC サイト[6]EC(Electronic Commerce):インターネット上で商品を売買するためのシステムでは主に自社の商品を販売しますが、最近では Amazon や楽天のように、個人が商品を購入するだけでなく、法人が商品の出品者として参加するシステムも存在します。この場合は利用料と販売手数料を出品者から徴収することになります。
様々な機能を提供するクラウドサービス
クラウドの定義は広く、ここまで説明したシステムのその多くはクラウドに該当します。ここではクラウドの世界 3 強である Google、Amazon、Microsoft のクラウドサービスについて触れます。
Google アカウントサービスは業務に利便性のあるアプリや YouTube などの汎用動画サイトなどを顧客を法人・個人問わず提供しています。Amazon が提供する AWS は主に法人向けにシステム開発の補助機能やプラットフォーム(開発環境)そのものを提供します。Microsoft も Excel、Word などを提供する一方で AWS とシステム開発者向けのサービスも提供しています。
などなど、枚挙に暇がありません。今一度注目してほしいのは、そのシステムは最終的に誰が使うのか、そのシステムに対価を支払うのが誰で、そのシステムを提供する(投資する)のが誰か、という点です。
ほとんどの SE は上記図でいうところの「元請け企業」か「孫請け企業」で務めることになるかと思われますが、サービスプロバイダから発注され作業していたとしても、サービスプロバイダ自身は消費者でないということを忘れてはいけません。確かに SE に対価を支払うのはサービスプロバイダではありますが、その対価も元はと言えばサービス利用者から支払われた(或いは今後支払われる)対価であることを強く意識してください。システムの満足度に関する主体はサービスプロバイダでなく、サービス利用者であることを肝に銘じておきましょう。
自分自身の顧客満足度とシステムの顧客満足度はわけて考える必要があります。自分自身の顧客満足度は自分、或いは所属する会社に対価を支払う企業(顧客)が判断することで、システムの満足度はシステム利用者が判断することです。システム利用者が顧客であれば話は早いのですが、システム利用者が顧客の先の顧客である場合、システム開発において顧客だけの立場に立ってもみえないことがある点にご注意ください。
詳細については別の機会にお話しますが、このユーザ目線を失わないうちはシステム開発で大きく失敗することは少ないでしょう。
補足:コンシューマゲームについて
任天堂などのゲーム会社も IT 技術は利用していますが、コンシューマゲーム(家庭用ゲーム)開発は IT 業界では製造業として認識されることが多いです。とはいえ、最近はゲームのアップデートや追加コンテンツの配信、スマホアプリとの連動などがあるため、広義では立派なシステムと呼べると思います。
但し、ゲーム開発は体制や工程も独特でなので、慣習的にゲームは少し特殊だ、とだけ覚えておきましょう。
次回はプロジェクトにライフサイクルについて説明します。
脚注
↑1 | SNS の台頭を契機に IT を ICT(Information Communication Technology)と呼ぶが、ほとんど同義。また、日常的に使われることはない |
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↑2 | Web アプリとはブラウザ(Chrome や Safari)を使って利用するシステム。それに対し、ネイティブアプリとは PC やスマホにインストールして利用するシステム。Amazon のように両方から利用可能なものもある |
↑3 | システムを最終的に利用する法人をユーザ企業、或いはエンドユーザ(単にエンド)と呼ばれることがある |
↑4 | B to B:Business to Business の略 |
↑5 | B to C:Business to Consumer(Customer)の略 |
↑6 | EC(Electronic Commerce):インターネット上で商品を売買するためのシステム |